令和9年度 障害福祉報酬改定の方向性

障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行から20年が経過しました。障害福祉サービス等の利用者は約170万人に達し、国の予算額は施行時の約4.5倍となる約2兆3,000億円へと急増しています。

この急激な市場拡大の裏で、今、業界は大きな転換点を迎えています。
厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」第62回(令和8年8月27日)の資料をもとに、令和9年度(2027年度)に予定されている報酬改定に向けて、国や関係団体の間でどのような議論が行われているのか、をまとめてみました。

※本記事は令和8年9月時点の「議論・提案」段階の内容を整理したものです。今後の検討で変更される可能性があります。


1. 令和9年度報酬改定の背景:問われる「サービスの質」

国は福祉予算を拡充し、令和8年度(2026年6月)には喫緊の課題であった従事者の処遇改善のため「臨時の報酬改定」も断行しました(報酬+1.84%、賃上げは月最大1.9万円程度)。それでも現場には強い危機感があります。

近年、一部の事業者において「障害者本位ではない不適切なサービス提供」が相次いで明らかになっています。
背景には、一部のコンサルタント等による
「特別な知識や経験は不要」「簡単に利益を上げられる」といった甘い言葉による新規参入の呼びかけがあり、十分に支援の質が確保されていない事業者が増えている実態があります(厚労省の検討チーム資料にも「特段の知識や経験は不要」「利益をあげることができる」として新規参入を働きかける例がある、と明記されています)。

こうした事態を受け、厚生労働省は「一律の予算抑制」ではなく、「質の高い支援を提供する事業所にしっかりと資源(報酬)が行き渡るような、メリハリのきいた報酬体系」への見直しを基本方針として掲げています。


2. 令和9年度改定における「4つの主要論点(案)」

厚生労働省の報酬改定検討チーム(第62回・令和8年8月27日)では、以下の4つの主要論点を中心に議論が進められています。

  • 持続可能なサービス提供体制の確保
    物価高騰や賃金上昇を踏まえ、他職種と遜色のない処遇改善を実現すること。また、介護テクノロジーやICTを活用した生産性向上の取組を推進すること。
  • 希望する地域生活の支援や多様なニーズへの対応
    施設や病院からの地域移行の促進、相談支援の質確保と「のぞまないセルフプラン」の解消、意思決定支援のさらなる推進。強度行動障害や医療的ケア児者など、多様な障害特性に応じた支援体制の構築。
  • サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保
    本来の制度趣旨に沿わない事業者の適正化、ガイドラインの遵守、虐待防止措置や業務継続計画(BCP)の策定、各サービスにおける適正な評価。
  • 地域差や人口減少への対応等
    中山間・人口減少地域におけるサービス基盤の維持・確保、地域区分や国庫負担基準の見直し。

3. 就労継続支援における「多軸評価(多面的評価)」への転換

特に費用の伸びが著しい就労系サービス(就労継続支援B型は前年比+20.1%の急増)において、評価制度の抜本的な見直しが叫ばれています。

◆ 就労継続支援B型:工賃一軸評価からの脱却

これまでは「利用者に支払う平均工賃が高いほど、事業所の基本報酬も高くなる」仕組みでした。しかし、これが原因で「手のかからない軽度な利用者ばかりを囲い込み、手厚い支援が必要な重度の障害者を敬遠する」という構造的な歪みが指摘されています。

これに対し、関係団体から次のような「多軸評価・総合評価」への移行が提案されています(※「多軸評価」は通称。公式用語ではありません)。

  1. 必要度スコア(障害支援区分)の導入:利用者の支援の重さに応じて基本報酬を段階的に評価し、重度者を受け入れるほど適切に評価される仕組み。具体的には「区分なし・1を低く、区分3以上を高く」点数化し、一人あたり平均点数が高い事業所ほど加算する案が提示されています。
  2. QOL(生活の質)の評価:単なる生産活動だけでなく、利用者の「通所安定率」や「在宅からの脱却率」など、本人の生活改善のプロセスを多角的に評価する。
  3. ピアサポートや地域貢献の推進:仲間を支えるピアサポートや、地域の課題解決に寄与する「地域協働」を適切に評価する(ピアサポーターが配置されていれば工賃区分に関わらず加算対象とする案も)。

◆ 就労継続支援A型:二重の役割のバランス是正

A型においては、現行のスコア方式が「生産活動が9割、福祉的支援が1割」となっており、本来の福祉的アプローチが十分に評価されていないとの指摘があります。
そのため、丁寧なアセスメント、生活支援、地域連携、利用者の知識・能力向上といった「福祉的支援」の配点を増やすことが強く求められています。また、現行のスコアが「平均労働時間が長ければ高い点数」となるため、精神障害者の受け入れが阻害されているという課題も指摘されています。


4. ガバナンスの強化:全事業所に「人権方針」の策定を

福祉としての本質を取り戻すため、関係団体(全国自立生活センター協議会など)からは、すべての福祉事業所に対して「尊厳・自由・自己決定・透明性」を明記した「人権方針」の策定を義務付けるべきという、極めて本質的なガバナンス改革が提案されています。

これにより、一部で問題視されている「囲い込みビジネス」や「名ばかりの在宅就労(数回のリモート確認のみ)」、ガバナンス欠如による虐待・不正といった不適切運営を、書類の整合性チェックだけでなく、実態を伴う形で厳格に排除していく流れが強まっています。


📌 まとめ:これからの障害福祉に求められる姿勢

令和9年度の報酬改定は、単なる「単価の上げ下げ」の議論ではありません。

  • 「どれだけの人を預かったか(量)」ではなく、「本人の希望やQOLをどう高めたか(質)」
  • 「書類上の要件(ストラクチャー)」だけでなく、「実際の支援プロセスと成果(アウトカム)」

これらが正当に評価される仕組みへと変化していきます。
営利を最優先とする不適切な事業者が淘汰される一方で、日々現場で目の前の利用者に真摯に向き合い、地道に質の高い支援を提供している「まじめな事業所」が、適切に報われ、守られる持続可能な制度設計が強く期待されています。


【参考資料】
・厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」第62回(令和8年8月27日)
 資料2:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001742921.pdf
 資料3:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001742922.pdf
・会議体ページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_446935_00001.html
※本記事は令和8年9月時点の「議論・提案」段階の内容を整理したものです。今後の検討で変更される可能性があります。

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