障がい福祉サービス事業所における業務継続計画(BCP)の完全義務化と、それに伴う報酬減算の仕組みを詳しく解説しています。令和6年度から、感染症や災害への備えがない事業所には厳しい減算措置が適用され、運営指導では過去に遡った返還請求のリスクも生じます。単なる書類作成にとどまらず、定期的な研修や訓練の実施、そして記録の保存といった実務的な運用が強く求められています。現場では障がい特性に応じた避難や職員の参集確保など、実効性をいかに高めるかが大きな課題です。最終的に、BCPは経営リスクの回避だけでなく、利用者と職員の生命を守るための不可欠な基盤であると位置付けられています。※2026年5月更新

業務継続計画(BCP)とは

そもそもBCPとは何か?

厚生労働省のガイドラインには以下の内容が示されています。

BCP とは Business Continuity Plan の略称でビー・シー・ピーと呼ばれ、日本語では業務継続計画などと訳されます。新型コロナウイルス等感染症や大地震などの災害が発生すると、通常通りに業務を実施することが困難になります。まず、業務を中断させないように準備するとともに、中断した場合でも優先業務を実施するため、あらかじめ検討した方策を計画書としてまとめておくこと

引用:障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継 続 ガイドライン 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部

近年、ゲリラ豪雨や台風被害も多く多くの被害が出ています。そのような災害が起きた場合、どのように業務を継続させていくか?会社、事業所内で検討、対策、計画を立てておく必要があります。

非常災害対策とBCPの違い?

災害対策は風水災害、地震等の自然災害や火災による災害発生時の避難訓練や対応方法を規定するものになります。消防法に規定されている消防設備の設置や、非常災害対策計画の策定、避難時のマニュアル等の準備も必要になります。

【災害対策とBCP対策の違い】

簡単に違いを説明すると、災害対策は災害から身の安全と財産を守るのに対し、BCPは災害対策+企業の存続(事業の継続)が目的となります。

BCP計画作成と運用のポイント

  • 研修は年に1回以上行うとともに、新規採用した時は入所時にも研修するのが望ましい。研修を行ったときは必ず議事録を作成。
  • 業務継続計画の内容は従業員間で共有する必要があります。
  • 下記、ガイドラインのフローチャートでは、①概要②平常時の対応③緊急時の対応④他施設との連携⑤地域との連携が挙げられていますので、フローチャートに則ったBCP、運営指針、マニュアル等を策定するのがよろしいかと思います。
引用: 障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の事業継続ガイドライン(厚生労働省)

また、下記の内容などを検討し有事の際は的確に指示が出せる体制を整えておく必要があります。併せて実際に計画を実行できるよう研修や訓練(シュミレーション)を実施することも必要です。

【平常時】

  • 情報収集(最新情報・知識の共有)いつどのタイミングで実施するのか。
  • 関係者への連絡体制や連絡フローの整備(意思決定者などを明確に)
  • 各担当者(有事の際、誰が、何をするか役割分担等)
  • インフラ(電気、ガス、水道)物資(水、食料、薬、)など備え など

【緊急時】

  • 発生時の状況把握
  • 法人内、事業所内の管理者(指揮、命令者)、職員へ報告体制
  • 行政、利用者家族等、関係各所への連絡体制(連絡フローに従い速やかに対応できるように)
  • 各担当者が計画の実行(職員体制の確保、業務の優先順位の整理、復旧対応など)

※自治体によっては、BCPなどに取り組む企業に対し、助成金や補助金などもありますのでHPなどで情報収集されると良いでしょう。

⇩参考【障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の事業継続ガイドライン(厚生労働)】

かなりボリュームがありますが、BCPのひな形は下記リンクをご参照ください。

⇩厚生労働省のHPに自然災害についての業務継続計画(BCP)に関する研修動画とひな形

感染症対策委員会の設置

こちらも自然災害のBCP対策同様、令和6年4月より義務化。早めのご準備をお勧めします。

感染症とは?

病気の原因となるようなウイルスや細菌、真菌などの病原体が人の体の中に入り、体の中で増殖することを「感染」と呼びます。病原体が増殖した結果、熱が出たり、下痢になったり具合が悪くなるなど、さまざまな症状を起こすことを「感染症と言います。
感染症は感染者を介して、いくつかの感染経路から広がることがあるため、感染経路を遮断するためにまずは予防すること、そして発生した場合には最小限に食い止めることが重要になります。

引用:障害福祉サービス施設・事業所職員のための感染対策マニュアル(厚生労働省)

平常時の感染予防と発生時の迅速な対応が求められます。

感染症対策委員会の設置についてのポイント

  • 感染症委員会はおおむね3ヶ月に1回以上(訪問系、相談系サービスは6ヶ月に1回以上)の定期開催(テレビ会議システムでも可能)感染症流行時に合わせて開催するのがいいかもしれません。
  • 具体的な内容は、感染症に関する最新情報の共有や、研修、訓練を通しての課題を見つけ指針を見直し改善する。(管理者、サビ菅以外の多くの方が参加できるのが望ましい)
  • 感染症対策担当者は看護師であることが望ましいが、なかなか配置はむずかしいと思われます。
  • 研修・訓練は年に2回以上(訪問系、相談系は年に1回以上)の定期的に行い内容を記録する。また、新規採用した時は入所時にも研修するよう努める。
  • 『感染症対策指針』として平常時の対策発生時の対応を策定および整備する必要があります。

【平常時】

  • 事業内の衛生管理
  • 日常支援にかかる感染予防対策
  • 連絡体制や連絡フローの整備
  • 各担当者(誰が、何をするか役割分担等)

などを決め有事の際は的確に指示が出せる体制を整えておく必要があります。

【緊急時】

  • 発生時の状況把握と連絡体制(事業所内、医療機関、保健所、行政機関等)
  • 感染拡大防止対策
  • ケア方法の確認と対応

参考:鳥取県「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定について」

参考障害福祉サービス施設・事業所職員のための感染対策マニュアル(厚生労働省)

参考【障害福祉サービス事業所等における感染症対策指針作成の手引き】

かなりボリュームがありますが、BCPのひな形は下記リンクをご参照ください。

⇩厚生労働省のHPに感染症についての業務継続計画(BCP)に関する研修動画とひな形

他参考:感染症の発生およびまん延の防止等に関する取組義務化(別紙)  等

研修・訓練について

具体的にどのような訓練&研修を行えばいいかといったご質問をいただくことがあります。訓練と研修を一緒に行う必要はありませんが開催は必要ですので、ご注意ください。

【訓練】

防災訓練等されているかと思いますが、それに加えて自然災害、感染症の実働訓練をするのは大変かと思います。

そこで、まずは机上訓練でも問題ありませんので、まずは机上訓練(会議形式)で行うことをおススメします。

机上訓練では策定したBCPの読み合わせをして、行動方針の手順などに不適切がないか等、複数名で確認することで漏れや、盲点を洗い出すことができます。

次に災害、感染症の発生状況やシチュエーションを設定し、非常時の行動を確認したり、行動・判断、意思決定の行う訓練を実施します。

課題の付与、状況予測を時間経過に沿って行うことで、変化していく状況の中で適切に判断、行動が可能かシュミレーションをします。

最終的には実働訓練を行いBCPをブラッシュアップしていく作業を繰り返していくことが重要です。

◆下記、「障害者施設等BCP実践講座」の机上訓練の様子が東京都のYouTubeにアップされてますので、参考にするのもいいかと思います。

参考:【障害者施設等 BCP実践講座】#9 机上訓練について【東京都】より

【研修】

自治体や企業で開催しているBCPについての研修を受講することも可能ですが、

BCPとはなにか、感染症についてなどは厚労省ホームページや動画などもアップされていますので活用するものいいと思います。

運営指導で「未策定」と判断されてしまう具体的なケースは?

運営指導において「未策定」と判断され、報酬減算の対象となってしまう具体的なケースには、主に厚生労働省が定義する3つのパターンと、実際の運営面での不備によるケースがあります。

詳細は以下の通りです。

1. 厚生労働省が定義する「未策定」の3つのパターン

実務上、以下のいずれかに該当すると「未策定」とみなされ、減算対象となります。

  • BCPそのものが書面として整備されていない場合: 計画自体が存在しないケースです。
  • 「感染症BCP」または「自然災害BCP」のいずれか一方しか作成されていない場合: 両方の策定が義務付けられているため、片方だけでは不十分と判断されます。
  • BCPは存在するが、必要な措置が講じられていない場合: 書面があっても、その内容に基づいた備蓄品(個人防護具、消毒液、食料等)の整備や体制構築が実際に行われていない場合は「未策定」扱いとなります。

2. 運営指導で実際に指摘される具体的な不備

単に「作っていない」こと以外にも、内容や運用状況によって「実質的に未策定(または基準違反)」と指摘されるケースが増えています。

  • 感染症BCPの対象が限定的すぎる: 内容が新型コロナウイルスのみを想定しており、インフルエンザやノロウイルス、結核など他の感染症への対応が記載されていないケースです。
  • 研修や訓練(シミュレーション)が未実施: 研修・訓練の実施そのものは減算要件ではありませんが、運営基準上の義務(入所系は年2回以上、通所・訪問系は年1回以上)であり、未実施は運営基準違反となります。
  • 記録が残っていない: 研修や訓練を実施していても、その日時、参加者、内容、振り返り等の記録(エビデンス)がない場合、実施したと認められず指摘対象となります。
  • 見直しの検討プロセスが不明: BCPは定期的な見直しが求められており、単に更新するだけでなく、見直しを検討した際の議事録等の記録がないことも指摘の対象です。

注意点:遡及適用のリスク

運営指導でこれらの不備が発覚し「未策定」と判断された場合、不備が生じた時点(令和6年4月等の適用開始時など)まで遡って減算が適用されるリスクがあります。これにより、過去に支払われた報酬の返還を求められ、多額の返還金が発生する可能性があるため注意が必要です

備蓄品として具体的に何を準備すべきでしょうか?

障がい福祉サービス事業所において、BCP(業務継続計画)に基づき準備すべき備蓄品は、一般的な災害対策用品に加え、感染症対策や障がい特性に配慮した物品が具体的に挙げられています。これらが不足していると、運営指導において「必要な措置が講じられていない」とみなされ、報酬減算の対象となる可能性があるため注意が必要です。一部ですが具体的な備蓄品を上げてみます。

1. 感染症対策・衛生用品

感染症BCPの実効性を確保するために不可欠な物品です。

  • 個人防護具(マスク、ガウン、手袋など)
  • 消毒液

2. 基本的な生活維持用品

自然災害発生時の業務継続に最低限必要な物資です。

  • 食料
  • 燃料

3. 障がい特性に応じた専用品

障がい福祉サービス特有の論点として、以下の備蓄が重要視されています。

  • 向精神薬など個別性の高い薬剤: 入手しにくい薬剤については、主治医や薬剤師と相談し、予備を確保しておく検討が必要です。
  • 高齢食・アレルギー対応食: 利用者の特性に合わせた食事の備えが求められます。

4. インフラ・ハード面の備え

停電や通信途絶を想定した設備やツールの確保も挙げられています。

  • 電源の確保: 発電機や蓄電池など。
  • 紙ベースのマニュアル: 停電時に電子データが閲覧できなくなることを想定した備えです。

実務上のポイント

運営指導では、単に計画書に「備蓄する」と書くだけでなく、これらが実際に事業所に備え付けられているかがチェックされます。また、小規模な事業所ほど、これらの備蓄品を保管するスペースや資金の確保が課題となる傾向があるため、計画的な整備が推奨されています

研修や訓練の記録には具体的に何を書くべきか?

研修や訓練の記録については、単に「実施した」という事実だけでなく、運営指導(実地指導)で「適切に運用されている」と認められるための具体的な内容を記載する必要があります。

記録には以下の項目を網羅して文書化することが求められています。

【記録に記載すべき具体的な4項目】

  1. 実施日時
  2. 参加者名(職員名簿など)
  3. 研修・訓練の具体的な内容
  4. 振り返り(評価・反省点)

運用のポイント

  • 「振り返り」の重要性: 単に記録を残すだけでなく「振り返りまで含めて文書化すること」が明記されています。訓練の結果、どのような課題が見つかり、それをどうBCPの改善に繋げるのかという視点が重要です。
  • 見直しの記録: 研修や訓練の結果を受けてBCPを修正した場合は、その「見直しを検討した際の議事録などの記録」も併せて保管しておく必要があります。
  • 確認書類としての備え: 運営指導の際には、「研修及び訓練を実施したことが分かる書類」が標準的な確認書類として指定されています。

研修や訓練の実施回数については、入所系施設では年2回以上、通所・訪問系では年1回以上という基準を満たしているかどうかも、記録から判別できるようにしておくことが大切です

まとめ

事業所が実施しなければいけないことを簡単にまとめると以下のような表になります。

・策定したら周知して皆さんと話し合って見直し。また、研修や訓練を定期的に行い見直し周知となります。また、実効性が低いのも事実ですので、いざという時に機能する「活きたBCP」を作成しましょう!

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